スタジオのピアノです
スタジオのピアノです(特注インシュレーターつき)

一ヶ月半にわたる防音室工事もようやく完了、爽やかな晴天のもと、5月28日(日)無事ピアノがスタジオに入りました。当初の施工計画では6月にならないとピアノ搬入は無理、ということだったのですが、「入梅の可能性もある6月のピアノ搬入とは言語道断!」と思った私は、何とか5月28日にピアノが入れられるよう、施工の方に強くお願いしたのでした。ということで、日時指定をした手前、この日は何が何でも晴れてもらわなければ困ったわけですが、そこは数々の晴れ女の実績を持つワタクシ(国内に限らずドイツやオーストリアでも実力を発揮しております!)、前日も含めて爽やかな快晴続き、まさに晴れ女の面目躍如ということになったのでした。本当に良かったです!

ピアノが届くまでの期間は、まさに一日千秋の思い。3月に今井顕先生のスタジオで弾かせていただいたときの音色やタッチの記憶だけで過ごす期間(この日からですと2ヶ月以上経っているのですね!)、正直ハラハラ・ドキドキの連続でした。先生のところで味わったようなあの響きにきちんと再会できるだろうか…。音場が変わるとピアノの音色も変わるもの。まして、諸事情があって、専用倉庫とはいえ横向き(縦向き?)の状態で保管されていたわけで、どの程度状態変化しているのかそれも心配…。

音響についても、その道のプロの方にお願いして、吸音・反射の条件や使用形態について密にコミュニケーションをとり、施工現場でも響き具合を自分の耳で確認はしていたのですが、楽器が入らないことには実際のところは分かりませんから、これまたドキドキものでした。想定の世界で過ごすことが、こんなに心配の種になるなんて!

しかし、ここに救世主軍団ご登場!28日まで大阪のお稽古にいらっしゃることになっていた今井先生はじめ、これまでずっと先生のピアノを調律されていた照沼氏、そしてずっと拙宅のピアノのメンテナンスをお願いしている久連松(くれまつ)氏、皆さま29日であればスタジオにお寄りいただけるということで、かくして錚々たるメンバーによる搬入チェックが行われることになりました。ご紹介しておきますと、照沼氏は長年ウィーンのベーゼンドルファー本社で日本人ながら出荷整音を任されていた第一人者、久連松氏はいずみホールやザ・シンフォニーホール等におけるコンサート・チューナーで、世界の名だたるアーティストのリサイタル調律をされる方です。ちなみに、以前からお知らせしております通り、こちらのサロンではこのお二方を指定調律師といたしますので、予めご承知置き下さい。

こうなりますと、私にできることはしっかり搬入日を晴天にすることだけ。行いをつつしみ、ひたすら天に祈る日々がつづきましたが、祈りが通じて絶好の搬入日和になったのは、先に書かせていただいた通りです。倉庫で保管されていたピアノのほか、拙宅から運ぶことになっていた例の最高級コンサートベンチ、新たに調達した客席用椅子や譜面台・各種家具類等、着々予定通り搬入され、翌日の各種チェックの準備は万端整ったのでありました。

翌29日もこれまた爽やかな五月の空になりました。この日私は、朝8時にはスタジオ入りし、ようやく到着したピアノを思う存分弾くことができました。調律の照沼氏を待つ一時間、スタジオでピアノの音を確認しておりましたが、この朝の時間こそ最高の待ち時間でした。まだ調律前ですし、インシュレーターが届くまでの急ごしらえの段ボールを敷き込んだ状態だったのですが、そんなことは全く問題にならないほどピアノの状態は良好そうに思えました。柔らかでまろやかなベースの音色。この音色の中にはいろいろな表情が宿っていて、タッチを変えると多彩な色合いを見せる、本当にすばらしい楽器だと思いました。金属フレームでバリバリ鳴らす感じの音作りは(←あまり好みではありません)全くといっていいほど影を潜め、そのかわりもっと深みのあるフォルテの音が追求できそうなピアノ(巧者であればの話…残念ながら私は自信がないですが…) ― これよ、これこれ。あ、でもこれは弾き手の実力を如実に反映する恐ろしい楽器かも。誰にでも愛敬を振りまく上機嫌な楽器ではないかもしれないわ。でも、そういうピアノこそ、名手の手にかかると本当にすばらしい音楽を奏でるのよね ― 。夢中で弾いていたら、窓の外に見えるのは調律師の照沼氏ではなくて、今井先生のお姿。あらら、先生が先にいらっしゃったわ。

今井先生が来られてからは、厚かましくも(!)ずっと弾いていただくようお願いして、スタジオでの響きの状況を確認させていただいたり、マイクやビデオ類の動作テストをさせていただいたりしておりました。なんて贅沢なのでしょう(生意気ばかり申し上げておりました)。やはり、名手の手にかかるとすばらしい音楽が奏でられるだろうという数分前の予想は、すぐさま実際に証明されることになりました。

程なく照沼氏も特注品のインシュレーターを携えてご到着、引き続き今井先生が音出しをされて、ピアノの位置決めが始まりました。

響きを確認しながらピアノの位置決めをしているところです
響きを確認しながらピアノの位置決めをしているところです

今井先生からは、照沼氏に対しソステヌート・ペダルをはじめ各種要調整事項が細々と伝えられたのですが、正直、そのやりとりを呆気にとられながらただ見ているだけの自分に苦笑を禁じえませんでした。私自身調律・整音等にはかなりこだわる方だと思っていましたが、どうやらこの程度で「調律にこだわっている」などと言っていてはいけないらしいわ…。

調律が終わった後の試弾についても、とてもこの面々の前で弾く勇気はなく、ちょろっとっ触った後は、結局先生にお任せしてしまった私、どこまでもいけない子を続けておりました(笑)。

今井顕先生と
今井顕先生と

その後、先生は午後からの大学の用事のためお帰りになり、今度は拙宅の調律をお願いしていた久連松氏が調律を終えてスタジオに合流 ― はい、この日私は2名の調律師に同時にお仕事をお願いしていたのでありました! ― 照沼氏から久連松氏に対する引継ぎが行われました。もっとも、細々と説明される感じではなく、それぞれ鍵盤やハンマー・ダンパーフェルトのあたりを触っては、「あーなるほどね」「そういうことだからね」「昔の型式ね」「あれ面倒なんだよね~」という感じのやりとりが続き、傍で見ている者からするとまるで禅問答、何のことだかさっぱりわからなかったのでありますが、あとで久連松氏にうかがったところでは、「うん、わかったよ」ということでしたし、先日の私のケースと同じく、要するに「予想通り!」だったのだそうです。

てんやわんやの搬入後チェックも、こうして無事完了、その後、調律後のピアノを弾くという至福の瞬間をスタジオでも自宅でも味わっていた私、間違いなくとんでもない贅沢者だと思います。ありがたいことです。

最後に、お世話になりました方々には、心から感謝申し上げます。