<今回の配信コンサートの告知ツール 圧着式はがきも作成しました>

皆さまからのあたたかいご支援により、昨晩(3月6日)をもって無事配信コンサートは終了いたしました。ご視聴いただきました方、まことにありがとうございました。

最終的には、多くの方にご視聴いただくことになり、本当にありがたいことだと感謝いたしております。おかげさまで、赤字に陥ることもなく、収益を無事関係者に分配できる見通しとなり、まずは安心しているところです。

え?お金の話??~興ざめだわ! …という声も聞こえてきそうです。芸術にお金の話ってねぇ~、趣味悪いわよね、と自分でも思わなくもありません。

ですが、「採算度外視して実行することに意義があるのよ、重要なのは演奏」というのは、一見美しいように感じるかもしれませんが、音楽を生業として生きていく者にとってはまさに自殺行為です。

もちろん、世の中には、音楽を生業とする方だけでなく、趣味で音楽をお楽しみの方、いろいろいらっしゃるのは承知しておりますが、少しだけ、今回の配信の経験を通じて私なりに感じたこと等を書いてみようと思います。多少のご参考にでもなれば、ということで。もちろん、ご興味ない方はスルーして下さいませ。長文になりますし。

え…それってビジネスのノウハウを披露しちゃうの?真似されるんじゃない? …というご心配の声もありそうですが…。いやいや、それほどのノウハウというものでもないですし、それに世の中一定程度は、真似をする人が存在するものだし。私も、前職時代も含めて、アイディアを真似されたことは数知れず。私自身も、誰かの真似をしてしまっていることだってあるでしょうし。もちろん、知的財産のお仕事に関与したこともあるので、守るべき権利はしっかり守りますが、一定程度は真似されることはあるものだと思わなければならない、というのが、最近の私の感覚です。昔、大先輩から言われました。「真似されてなんぼやで。真似されんようやったらそれはあんたのやっていることが大したことない言うことや。真似されたとしても、ほんまにいいものやったら生き残るはずや、それにまた新しいこと考えたらええ」とね。

脱線失礼いたしました。

そろそろ本題。

まず、最初に申し上げたいのは、「配信」の集客ハードルは、やっぱり高いという事実を十分に認識すべきだということですね。少なくとも、収益を出そうとするのであれば、ここの読みはシビアでなければならないと再認識いたしました。今回は、今井顕先生のコンサートだったということもあり、先生の知名度と絶大な人気が根底にありましたので、結果として多くの方にご視聴いただけたわけですけれど、それでも、最初はかなり苦心いたしました。

YouTube といったような無料で一流アーティストの音楽を楽しむことができるプラットフォームが存在する中で、あえて有料のコンテンツを配信するということは、それ自体とても高いハードルなのです。巨匠・名人・若手実力者の演奏がいくらでも検索でヒットする環境下で配信する有料コンテンツです。よいものでない限り売れない、これ当たり前のことでしょう。

で、ここで白状しますね。視聴チケットの最初の1枚目を購入したのは、誰あろう私です。私は、主催者ですから、チケットの販売管理システムの数値にアクセスできるわけですけれど、この「1」が「2」になるまでに、本当に長い時間がかかりました。リアルの演奏会のチケット販売の場合、人気アーティストだったら「瞬殺」ということだって起こるのに、「え、私だけ?」という状態が続いたとき、一瞬目の前が真っ暗になりました。もっとも、配信の場合、限りある座席を確実にゲットする、という話でもないですし、配信が始まってから買っても十分間に合いますから、販売初日瞬殺であることは考えにくいですけれどね。それでも、「1」の数字の時間が長かったときには、生きた心地がしなかったです。ですから、数字が「2」になったとき、「ありがとうございます」と画面にむかってつぶやきながら、涙が出たのを思い出しますね。まあ、最終的には、取り越し苦労だったわけですが。

今から思うと、「10枚になるまで」そして「50枚になるまで」は結構辛かったかな。50枚では残念ながら赤字ですからねぇ~。それでも、そこはさすがに今井先生の集客力です。ジワジワとコンスタントに数字が上がってくるようになって、やがて赤字脱出も見えるようになり、ようやく安心できるようになりました。

それでも、配信の集客が本当に厳しいというのは事実です。例えば、リアルな演奏会なら、ご夫婦連れや親子連れの場合人数分のチケットになりますが、配信だとまあ一家に1枚になってしまうというところはありますね。かつ、今回のように全数チケット販売を配信事業者に委託すると、対面でチケットを売ったりという場面がないため、主催者側が告知したとしても、ご視聴いただく方に能動的に視聴サイトにアクセスしていただくことが前提になりますから。

あと、これは、クラシック業界というか、アコースティックな舞台活動を中心としている方たちの場合、特に注意しなければならないのが、配信を行うためには、PA関係のコストが追加されるという現実です。もともとPAシステムとPA担当者さんが存在することが前提のライブハウス系の配信の場合、機材も人材もはじめからある程度揃っているわけで、そういう分野の方たちとは、少々事情が異なるように思います。

アコースティックな舞台を活動の中心とするクラシック奏者でも、最近では、ホールを借りて、PAシステムとPAさん入れて、リアルの演奏会と配信のハイブリッド型イベントをされるケースも増えてきたようですが、ここで採算をとろうとなると、結構高いハードルではないかな、と思うわけです。つまり、採算がとれる設計をしない限り、「結局演奏会をしたけれど、達成感はあったけれど、結構な出費」という結果に終わるのですね。

一方で、配信には、配信なりのメリットと新たな可能性もあるな、とも感じています。アフターコロナ時代、全て以前の通りの音楽シーンになるかと問われると、実は、配信には配信なりの可能性が結構秘められていると感じられるところがあるため、一定程度形をかえて残っていくことも考えられるな~と思います。

リアルの演奏会だと、演奏は、時間が来たら終わってしまいます。一回しか聴けません。聴き逃したら、それはそこまでです。でも、今回、多くの方が、配信終了まで、何度も何度もリピートしてくださいました。そう、これ、演奏家の側からすると、「何度も何度も自分の芸を味わってくれるコアなファンに喜んでもらう」ことになるのです。これはこれで、一つの発見でした。

それから、「演奏会かくあるべし」から解放された自由な楽しみ方もありますね。演奏会場では私語は厳禁ですが、私語もやりたい放題できますから。ワイン・ヤキトリ・ポテトチップス・チョコレート…そんなもの片手に楽しまれた方もいらっしゃるようですし、乳幼児がいらっしゃるご家庭でも歓迎されたようです。こたつミカンという方もいらっしゃったかな…。

多くの方から続編を望む声をうかがっております。この続編を今回と同じ形で行うのか、と問われれば、実は、いろいろ考えるべき点があるようにも思います。世の中の情勢も変わってくることでしょうし。ただ、配信には、厳しさと可能性が両方あるということを踏まえて、一概に「配信はダメ」とも「何が何でも配信」とも決めつけることなく、持続可能なスキームを模索していく選択肢はありだな、と私自身は思っています。

なお、収益金のうち、私自身に分配される金額の中から、何某か寄付したいな、と思っております。なぜなら、今回のコンサート、ご寄付いただいた方によって支えられたから。

最後に、今回の配信コンサートにあたり、ご支援いただきました全ての皆さまに改めて御礼申し上げます。