目下防音工事中のこちらのサロンですが、工事用電源が必要ということで、着工前に電気の使用開始申込みをいたしました。この頃はインターネットでもこうした申込み手続きは可能ですが、今回は、請求書等の送り先を別途指定したり、前契約者の契約種別を確認のうえ、必要があれば契約種別変更をお願いしたりしたかったものですから、あえてコールセンターに電話することにしました。今日は、そのときのエピソードをご紹介。以下の会話、Aはコールセンターのオペレーターさんです。
A: ご住所をどうぞ。
私: 京都市上京区今出川通寺町東入米屋町294・グラティア御所東1F・東側 です。
A: 京都市上京区米屋町294ですね。グラティア御所東というのは本当ですか。新築ですか。
私: グラティア御所東です。2014年頃からあるマンションですが。
A: そういう建物は見当たらないですね。地図でお探ししますので、お待ち下さい。
― 待つこと数分 ―
A: 京都信用金庫丸太町支店の近くですよね。そういう物件は該当ありませんが。
私: 丸太町支店?もっと上(かみ=北のこと)ですよ。上京区には米屋町が複数あるのですよ。
A: え?
私: 最初に今出川通寺町東入と申しましたでしょう?
A: あ、すみません。今地図を拝見しておりますので、もう一度場所を教えていただけますか。目印の場所とか。
私: 河原町今出川の交差点はお分かりですか?その交差点から今出川通りを西へ、寺町通りの少し手前、今出川通りの南側です。
A: あ…ありました。確かにグラティア御所東、という物件のご登録がありました。
受付コールセンターが京都に設置されているとは限りませんし、オペレーターの方もひょっとしたら京都の方ではなかったのかもしれません。だからでしょうか、今出川通寺町東入という通りの呼び方について、すぐには反応できなかった模様…。あるいは、この頃の郵便番号ソフト普及の影響でしょうか、「京都市上京区米屋町」というように、通りの名前を省略する住所表記を標準運用にしていたのかもしれません。
ただ、「米屋町」のように上京区に同じ町名が複数あったりすると、今回のように話が噛み合わなくなってしまうこともあるのです。そう、通りの名前を省略しようとすることに起因して起こったことですね。
そういえば、この話、以前に作っていたホームページでも話題にしていたはず…、と大昔の原稿を探してみました。バックアップをとっていたので、以下に再掲します。久しぶりに読みながら「あ~あ、やっぱりね~、結局歴史は繰り返すのよ」と思わず苦笑いしてしまったのでした。
【7桁の郵便番号と京都の住居表示】
- a: では、郵便番号とご住所をどうぞ。
- b: はい。郵便番号6□□-□□□□、住所は、京都市上京区○○通◆◆下る◎◎町××番地です。
- a: あの、恐れ入りますが、ご住所は、京都市上京区◎◎町××番地ではだめなのでしょうか?
- b: はぁ、郵便物は届くと思いますけど…。
- a: それでは、ご住所は、京都市上京区◎◎町××番地ということで、ご登録させていただきます。
これは実際にあった話。郵便番号が7桁になって、各種郵便番号変換ソフトが充実してきたおかげで、住所録の管理は格段に楽になった。たいていは、丁番号等を入力するだけですむ。郵便番号を入力すれば、自動的に「町名」まではすべてセットされているからだ。
ただしこの制度、全くそぐわなかった都市がある。それが京都の古くからの市街地。郵便番号簿も、京都市に非常に多くのページを割いているし、検索する場合も結構手間がかかる。おそらく京都市内の地理に不案内な人だと、目的の番号をさがし出すのに軽く5分はかかってしまうだろう。しかも、「五辻下る」・「今出川上る」-「え?あれ?どっち?」…「もういやっ!」ということにもなりかねない。
そう、多分大多数の京都以外の方の目には、きっとそういう「煩わしい」ものにうつっているに違いない。京都の古くからの市街地が碁盤の目状態になっていて、いわゆる「上る・下る・西入・東入」と称されるのはかなり有名なことであったとしても…だ。
今日、これからお話しようとすることは、こういうことの原因がどんなところにあるのか、私の知る限りで述べてみようというものである。
もう一度、冒頭の住所のくだりをよくご覧いただきたい。特に、オペレーターからの問いに応じた最初の正式(というべきか?)な住所の構造にご注意いただくといいだろう。
(1)○○通◆◆下る (2)◎◎町
要するに、区以下には(1)及び(2)の二つの要素が含まれているのだ。(1)は、いわゆる通りを座標として、その交点からの位置を示す構文、そして(2)が町名、という作りになっている。
実は、(1)でだいたいの位置関係が示されてしまうため、住居表示のキーとなる要素は(2)ではない、と言っても過言ではない。
ちなみに、ご存じの方も多いだろうが、京都の古くからの市街地は、通りを挟んで両側が同じ町内に属する。いわゆる「両側町」である。
住居表示に「通り」の名が使われる事例は、日本国内ではともかく、世界的に見れば実はそんなに珍しいことではない。シャーロックホームズのベイカーストリートの住所にしても、面している通りが住居表示のキーになっている。当然、通りの両側が同じ「ストリート」に属するわけだ。
ちなみに、通りの両側が同じ町名になるところは、実は日本国内にも存在する。大阪市内のいわゆる淀屋橋よりも南側のオフィス街のあたりは、東西の通りに面した両側が同じ町名になっている。梅川・忠兵衛ゆかりの淡路町のあたりがそうだ。ただし、大阪の場合は、「ちょう」ではなく「まち」と読むらしい。だから、丸ノ内線の駅名のように「あわじちょう」ではなく「あわじまち」となる。そして、別途詳述したいが、京都市内の(2)は「ちょう」と読む。
かなり脱線してしまったが、話をもとに戻そう。京都市内を除く日本国内で、市制がとられているところの多くの場合は、上で述べたような「両側町」ではない。通りで囲まれた幾つかの区画を含むある範囲が、一般的に●●町と呼ばれている。
このことはとりもなおさず、京都の◎◎町と●●町とでは、規模も含めてかなり質的に異なる、ということになる。すなわち、◎◎町は、ある一本の「通り」をキーにしたそれもかなり狭い範囲を指すものであるのに対して、●●町はそれよりは広範囲な範囲を示す呼称なのである。だから、◎◎町の類は、恐ろしく沢山の数が存在し、しかも同一名のものもかなりある。
例えば「京都市上京区毘沙門町」などと言われたところで、私などは、「は?それどこ?」と思ってしまう。そして、困ったことに「毘沙門町」は、上京区内にも複数存在していたりするものだから、もうわけがわからない。「今出川通七本松西入毘沙門町」「上立売通寺町西入毘沙門町」と聞いて、ようやく、位置関係がはっきりするというものだ。
だから、冒頭でオペレーターに応えたことの真意は、「上京区◎◎町××番地」の場合、郵便番号が正確に記載された限りにおいて、「郵便物は届く」 ― そう郵便屋さんは配達のプロなのだから ― という意味であって、本当は面倒でも通りの名を登録しておいた方がベターだということだったのだ、実は。
それなら、「◎◎町というのはどういう存在なの?」-という問いが出てきそうなものである。そう、これについては、また稿を改めてご紹介したい。この「町(ちょう)」こそは、中世以来の京の自治組織の単位であり、どこの町もそれなりの歴史を持っていること、この町が小学校の校区とも密接な関係があること、等について言及できれば、と思っている(追記:「学区という概念」をご参照ください)。
郵便番号は、正確にハッキリと、そして通りの名前も略さず記載しよう!