<豊かな音を発する低音弦>
<豊かな音を発する低音弦>

Zu laut! (音が大きすぎる!) ― 長年音量不足で悩んでいたこの私が(その話はこちら)、まさかこういう注意を受けることになろうとは。これは、先日の伴奏法レッスンの際に私が受けた「指摘事項」です。後でレッスンの録音を確認したところ、確かにヴァイオリンとピアノの音量のバランスが非常に悪く、大きすぎる私の音がヴァイオリンの美しい旋律を完全にぶち壊していたのでした。確かにやかましいわ、このピアノ…。

今年に入ってから、ソロの曲も多少はお稽古しておりますが、どちらかというと、連弾やヴァイオリンとピアノのためのソナタ等、いわゆる「合わせもの」がお稽古の中心になっております。共演者との共同作業で音楽を作っていくアンサンブルの場合、いろいろな発見がありますね。それらの多くは、ソロだけをお稽古していたときにはなかなか意識できなかったようなことばかりです。

私の場合、まだ初学者なので、本当にお恥ずかしいレベルではあるのですが、例えば、フルートと合わせることでフレージングを、ヴァイオリンと合わせることで、アーティキュレーションをより意識するようになりました。また、例えば弦楽器と鍵盤楽器では、音の出る原理そのものが違いますから、仮に同じタイミングで同じ高さの音を出す箇所があった場合、響きが喧嘩する場合があることを知り、新鮮な驚きを覚えました。

さて、「合わせもの」を演奏するうえで最も気を遣うべきは、何といっても音量の調節。これが、実は非常に難しい、ということを実感しました。以前の記事で、グランドピアノの場合、演奏者は右前方のやや遠い音を聴くべきであることついて触れましたが、まさに奏者の頭部(耳)のあたりで音をとらえる癖がついていると、確実に音量の調節に失敗します。例えば、ヴァイオリンとピアノのための作品をホールで演奏する場合、客席位置でそれぞれの楽器の音量のバランスがベストになるような音の出し方を工夫しなければなりませんが、これこそ、演奏者が客席(即ち奏者から遠い位置にある場所)における響きをモニタリングできることが大前提になりますから、普段から遠くの音を聞く訓練を積む必要があるわけですね。

音量バランスを考えなければならないのは、異なる楽器同志を合わせるときだけの話ではありません。年初から連弾作品のセコンドパートを弾いてきて分かったことは、例えば182センチの自宅のピアノで合わせるときと、211センチのスタジオのピアノで合わせるときでは、低音部の響き方が変わってくるため、同じ曲であっても同じ弾き方をしてはいけない、ということでした。大型のグランドピアノになればなるほど、低音部の響きが豊かになるため、ついつい調子に乗って大音響を鳴らしてしまいがちになるのですが、連弾ではこれがNGだったりするのですね。事実、連弾の合わせ練習の過程で、何度か録音をチェックしましたが、「美しい旋律を殺してしまった私のぶざまな重低音」にため息が出たこともしばしば。連弾にふさわしい音量とはどういうものか、考えさせられる日々が続きました。

  • フォルテであっても、ときに音量を絞らなければならない。が、同時に、明らかにフォルテはフォルテとわかるような適切な表現を模索しなければならない。
  • しっかりとしたバスの響きの支えは必要だが、最も強調すべきパートを活かす音量を同時に探らなければならない。
  • 大音量の迫力ある重低音はもてはやされることも多いが、ときに音楽を潰してしまうこともあるらしい。
  • 自宅で弾いた感覚のまま他所で何も考えずに同じように弾くのは大間違いなのではないだろうか。
  • そもそも、フォルテは本当に強く弾くことなのか?

「合わせもの」の経験を通して考えさせられたこと、それは結局のところ、美しい演奏をするためには、「場に即した音を出す」ということにほかならないのではないか、ということでした。これは、「合わせもの」に限ったことではなく、本当はソロの演奏であっても考えなければいけないポイントなのかもしれません。そして、この「場に即した音を出す」ためには、一にも二にも自分の音をモニタリングできる耳を養うことに尽きるのだろうと思うのであります。