今年(2017年)のお正月休み中に、ふと思いついて2枚目の名刺を作ることにしました。この2枚目の名刺とは、本業で使っているものとは別の「プライベート用の名刺」のことです。最初は、本当に単なる思いつきでした。趣味(音楽等)で知り合った方々に本業の名刺を渡したとしても、そこに記載されているメールアドレスや住所に連絡をいただくわけでもありませんし、名刺をお渡ししたことがきっかけで、守秘義務事項やその周辺事項等について、(こちらの意図に反し)話題にのぼらないとも限りませんから、プライベート用の名刺があった方が何かと便利かもしれない、と思ったのです。
この思いつきをある方にお話したところ、「それは運気が上がるわよ」という思わぬコメントが寄せられました。本当かしらと思いながらも、実は、自分でも根拠なく「運気が上がる」気はしておりました。そして、程なくそれが本当であることを実感したのです。というのも、プライベートの名刺を作るようになってから、出会いの範囲が広がったり、「最高級コンサート用椅子」→「2台目のグランドピアノ&スタジオ」が雪だるま式にもたらされたり、という具合に、不思議な出来事・不思議な偶然(それも嬉しい偶然)が次から次へともたらされたからです。
なぜでしょうね。プライベートの名刺を作っただけなのに…。科学的に証明しろと問われれば、浅学な私にはハードルが高い話なのですが、ただ私自身、一連の経験を通じて思い当たった「仮説」めいたものを持っているのも事実です。あくまでも個人的な仮説ではありますが、今日はこの2枚目の名刺がどうして幸運を呼ぶのか、私なりに考えてみたいと思います。この仮説が、万人にも該当する普遍性を持つか否かは保証の限りにはあらず、という前提でお読みいただければ幸いです。
プライベートの名刺を自分で作るということは、これまで当たり前のように準備されていたお仕着せの名刺の場合と異なり、そのコンテンツを自由に決められる気楽さがありますが、一方で「自分とはどういう人間であり、それをどう表現し、どう紹介するか」ということについて、真正面から向き合わなければなりません。肩書きのようなものを一切取り払った自分自身に何が残っているのか、まず、そこから確認していく必要があります。自分が本当に好きなことは何なのか、自分の本当の強みは何なのか、自分がどういう人間でありたいのか、自分がどういう人間になりたいのか、そのイメージを名刺という小さな紙面に凝縮していく作業が求められるのです。いわば、「セルフ・ブランディング」の作業です。
この作業、やってみてわかったのですが、これまで経験したことがないほどにワクワクと楽しいものでした。「自分らしさにとことんこだわってよい」 ― 日常生活では案外許されにくいことだったりしますから、言いようのない喜びを感じることができます。自分の好きなことは何か…ピアノ・史跡巡り(散歩)・写真・書道…。普段「隙間時間」を見つけてちまちまと楽しんでいた趣味、これらを前面に押し出せたらどんなに楽しいだろう、という気分になってくるのです。
今どき毛筆による自筆の署名を名刺に印刷する人などほとんどいないだろうから、個性的になっていいかもしれないなぁ(悪目立ちするかな)。
レーニッシュ(自宅のピアノ)というピアノも、名刺を渡すときちょっとした話題にできるだろうし…。
どうせなら、愛用のカメラで撮ったピアノの写真を使おう…。
こんな具合に自分の中でコンテンツがある程度決まったところで、ふと、普段からお世話になっている各種印刷デザイン等をお願いしている女性担当者さんの顏が浮かびました。その瞬間「プライベートだからって、何もかも手作りにする必要なんてないかもしれない」という考えがよぎったのです。どうせなら、一緒に考えてもらおう(!)。そう思った私は、早速その担当者さんにプライベートの名刺のデザインについて相談することにしました。そうしたらどうでしょう、その女性担当者さんの方もノリノリで、選ぶのに困ってしまうほど案を出して下さったのです。これには、私も驚きました。しかも、名刺が出来上がった後お礼メールを送りましたら、ほどなく彼女からこんな返信メールが届いたのです。一部だけご紹介しますね。
依頼主の意図が明確。
その意図に共感できる。描いたイメージにプラスアルファーのものが
具体化されていく。
そして、依頼主に喜んでいただける。
(略)
大変嬉しいことです。
(略)
現実は、いろいろな外部環境要素や、
スケジュールや費用などの都合でなかなか思うままにならないものですが。
本来はこのような感じですすめるのが理想
(略)
私のためにここまで喜んで下さる方がいらっしゃること自体が驚きでしたが、やはり、楽しいこと・ワクワクできることは、信頼できる仲間とともに行う方が、ひとりで行うよりもずっとすてきなことなのだ、と実感した瞬間でもありました。
思うに、2枚目の名刺とは、自分の人生を「主体性をもって生きる」ことの宣言文のようなものです。これは、とりもなおさず自己効力感(セルフ・エフィカシー)の向上にもつながるのではないか、と思うわけです。自己効力感が向上すれば、自然とモチベーションが上がり、物事に対する姿勢が変わってくるものです。そう、2枚目の名刺がきっかけで、人生がいろいろ動き出したのは、ある意味当たり前のことだったかもしれません。
ところで、最近になって知ったことですが、以前お世話になったこともある一橋大学イノベーション研究センター教授で六本木アカデミーヒルズ「日本元気塾」塾長の米倉誠一郎先生が、なんと、『2枚目の名刺 未来を変える働き方(講談社プラスアルファ新書)』を出版されていたのだそうです。私は、この本のことは全く知らずに、ただ思いつきだけで2枚目の名刺を作ったわけですが、今まさに話題の「働き方」の観点から、2枚目の名刺が注目されていることを知り、正直かなり驚きました。
そうか…私も知らず知らずに時代の流れに乗っていたのかな。
そうそう、3枚目の名刺を準備しなければならないのだったわ。
単なる思い付きで作った2枚目の名刺がもたらしてくれた数々のものを思うと、感慨深いものがある今日この頃です。