この度、使って下さる方がいらっしゃるということでしたので、自宅に置いていた電子ピアノを手放すことにいたしました。先ほど搬出が終わったところです。
数日来の大雨、一時は近隣まで避難指示(緊急)が発令されるほどの悪天候でしたが、幸い搬出のタイミングでは雨は上がりました。
それにしても、今回の一連の大雨、全国各地で甚大な被害が出ている模様、また多くの尊い命が失われたようで、大変心が痛みます。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々の一日も早い復旧をひたすら願うばかりです。
さて、こちらの電子ピアノ、大学生のときにアルバイトしたお金を貯めて入手したものですから、電子機器としては相当の年代ものです。今どきの電子ピアノに比べればかなり違うのだろうとは思いますが、まだ全ての音が出る状態ですし、ダンパーペダルの操作もできます。駒場から本郷に進学すると、東大ピアノの会の拠点が駒場にあるため、どうしてもピアノを触る機会がめっきりと減ってしまうものですから、悩んだ末少ない貯金をはたいて購入しました。それでなくても狭いワンルームに無理無理設置しましたので、電子ピアノ用の椅子を置くことはできず、勉強机の椅子と兼用させていたのでした。確かに、電子ピアノを弾いているときには、勉強机を使うことはありませんし、勉強机に向かっているときは電子ピアノを弾くことはありませんから、これはこれで合理的だったと思いますが…。
この電子ピアノがあったおかげで、その昔、今練習中の幻想ソナタの第1楽章(シューベルト・ちなみにこの曲を弾いていた事情についてはこちら)を暗譜することもできました ― 当時は短期間の暗譜も可能でした ― 。また、阪神大震災の直後、自宅を建て替えるために仮住まいしていたときにも、この電子ピアノで幻想ポロネーズ ― 私が弾いた数少ないショパンかも ― を練習したものでした。もっとも、この後自宅にグランドピアノが入ることになり(そのときの話はこちら)、それからというもの、電子ピアノを触ることはほとんどなくなりました。それでも、苦労して手にいれたものだし、早朝・深夜の譜読み用には使えるかもしれない、と持ち続けておりましたが、先般もう一台のグランドピアノを入手、さらには防音スタジオまで作りましたので(そのときの話はこちら)、その意味でこちらの電子ピアノを保有する理由もなくなってしまいました。
思うに、楽器というものは、茶道具同様、果たすべき役割というものがあり、ときにその役割を果たすために主人を変えていくものなのかもしれません。これは、今回の電子ピアノに限らず、昔自宅にあったアップライトのピアノや、先般こちらのスタジオにやってきたスタインウェイについても言えることなのかもしれません。弾く人の人生のステージが変われば、必要とする楽器も変わるもの。その昔苦労して手に入れた電子ピアノではありましたが、私のところでの役目を終えたのだと思いますし、またきっと新たな役目を果たしてくれることでしょう。今は素直にそう思えるのです。