この度、スペインの KNS Classical から、New Album “Light and Shadows” をリリースすることになりました。

カバージャケットのデザインです。

こちらが公式リリース告知です。

Japanese pianist Kyoko Sakata joins KNS Classical with her album “Light and Shadows”

正直なところ、我ながらデジタル・パブリッシングなど「まだまだ」「時期尚早」という思いも強いです。名を重んじるなら、こんな軽挙妄動は慎むべきものなのかもしれません。

もっとも、以前にも申し上げたかもしれませんが、私の場合「守るべき過去の栄光」の類など何も持ち合わせておりませんし、これからの伸びしろを見込んで今回見送ったとしても、「やれ老眼だ!やれ五十肩だ!」と経年劣化甚だしいオトシゴロ、この先の自分自身に何ら保証はありません。そもそも「命長ければ恥多し」は当たり前、なら大いに恥をかいてでも、この世に生きたちょっとした証を遺して行ってもいいかな、と開き直っている私だったりします。

ことの起こりは…。

コロナ禍をきっかけに、気が付くと演奏動画審査収録の活動がメインになってきたこともあって、「自分自身の演奏技術もさることながら、自分自身が作成した動画はどのようにコンクールの現場で受け止められているのだろう」と思うようになり、国内外の幾つかのコンクールに自分の演奏動画を送ってみたところから始まったのでした。

少しだけ事情をご説明しておきますと…。お客さまからお金をいただいて動画収録を行う以上、機材設定条件や作業手順の確認も含めて、事前テストは欠かせないわけです。そのため、テストを兼ねて、自分の演奏動画を幾つも作っていたのです。こうして作った私の演奏動画、実は、大変お恥ずかしいことながら、お客様から収録のご依頼をいただいたときに、仕上がりイメージを見ていただくために、サンプルとして提示することもあるのです。他のお客さまの収録事例をお出しするとなると、予めそのお客さまのご承諾が必要になりますから、みっともなくても自分自身の演奏サンプルを出しておく方が無難、ということもあります。

…と話は脇道にそれましたが…。

2021年の夏、スペインで行われた Carles & Sofia International Piano Competition 2021 の PROFESSIONAL 部門で、運よく金賞とベストモーツァルト賞をいただくことになりました。

この賞は、もともとは2022年夏のバルセロナおよびジローナにおける GALA Concert に出演できるというものだったのですが(←2022年7月参加いたしました!)、その他に審査員からの推薦があれば、他の機会が与えられるというオプションがついていたようなのです。

当初は、2022年夏には、何の気兼ねもなくスペインに渡航できればいいな、という程度の軽い気持ちで過ごしていたのですが、2021年の10月下旬頃、突然このコンクールの審査委員長でスタインウェイアーティストでもある Carles Lama の推薦ということで、55分~65分のパブリッシングのお誘いが舞い込んできたのです。

どうする? こんなドキドキするようなことチャレンジする?

ちょうどその頃、東京国際芸術協会からも60分の副賞リサイタルの機会を頂いた折だったので(←2022年11月にソロリサイタルを開催しました!-記事はこちら)、「どちらも同じプログラムとし、一年かけて準備すれば、やってやれないことはないのでは…」という思いがよぎったのです。

もちろん、迷いがなかったわけではありません。断れば何のリスクも生じないことでしょう。でも、それよりは、後々自分の人生を振り返ったときに、「あのときチャレンジしておけば良かったなぁ」と後悔するよりは、生命さえ奪われないのであれば、多少の冒険はあってもいいのでは、という思いの方が強かったのです。何よりも、このご縁を大切に生きてもいいのでは…。

幸いにも、既にこちらのレーベルからアルバムをリリースされた日本人のピアニストの方の前例をうかがうことができ、また、レーベルの担当者とのコミュニケーションも実に円滑に進み(←日本人相手でもここまで的確かつ円滑に事務を進められる人は少ないかも…というぐらいストレスは少なかったです!)、2022年12月末までに収録する、ということで合意に至ったのでした。なお、はじめ物理CDを作る話もありましたが、shipping や在庫リスクを考慮して、今回はデジタル・パブリッシングのみを行うことにいたしました。

ソロリサイタルと同じ曲目の収録を考えていたので、リサイタルの一ヶ月前あたりに、練習を兼ねて収録すればいいのでは…。よし、そうしよう。日本国内での収録もOKという条件なので、それなら慣れた自スタジオの楽器で、しっかり調律師の方にメンテナンスをお願いして、じっくり時間をかけて収録し、手間暇かけて自分でマスターファイルまで作ってしまおう!!演奏技術のみならず、音響技術の向上にも資するはず。

…と、計画段階では、結構「バラ色」な気分に浸っていたのですが。

今だから白状しますが、実際のところ ― とにかくとんでもなく苦しかったのであります。

2022年の10月後半からは、調律師さんにこまめに通っていただきながら、ひたすらマイクに向かって収録する日々が続きました。この2022年の10月後半以降の期間が、本当に地獄の苦しみでした。というのも、調律していただいてピアノの状態はとても良好なのに、私ときたら、ほんと全然弾けないのです。情けないことに、調律師さんがスタジオから比較的近いところにお住まいであることに甘えて、何度も何度も手直しに通っていただく有様。でも、何度弾いても、自分自身で納得できるようには弾けない。

どうにもこうにも煮詰まってしまった私、本当は、リサイタルの前に収録を終えることを考えていたのですが、とても無理だと判断して、リサイタルの一週間前に一旦収録作業を中断しました。

リサイタル終了後、収録作業を再開、でもやっぱりなかなか思うように進まず、しばらくは、落ち込む日々が続きました。いつまでもこうしていられない…どうしよう…困った…。で、ある日ふと思ったのです。11月26日までは頑張る。そこでの結果が今の実力。それが自分、受け入れるしかないじゃないの。

そして、演奏自体も苦しかったのですが、もっと苦しかったのがマスターファイル作成作業。かつて、自分の録音に向き合うことの辛さをこれほど味わったことはあっただろうか。レコーディングって、自分の未熟さに向き合うことなのだ、と改めて思った次第です。何日も何日も編集作業に時間をかけ、ようやくマスターファイルを仕上げたのが、2022年12月6日のことでした。もう、〆切ギリギリですね。

ほどなく、私が作ったマスターファイル、レコード会社の音響担当者から「音響面で問題なし」とのフィードバックがありました。演奏技術はともかく、音響技術上の問題が生じなかったのは本当に嬉しかったです。

その後は、カバージャケットの撮影、アルバムタイトルの検討 ― ”Light and Shadows” は KNS Classical からの提案でした! ― 、その他年末年始もいろいろありましたが、とにかく驚くほど円滑に準備が進み、ようやくリリースに漕ぎつけたのであります。

ということで、どうにかこうにか世に出すことができました。お世話になりました皆々様方には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。