ハンブルクで触ったピアノ
<今年の3月にハンブルクで触ったピアノです>

普段慣れたものとは全く異なる楽器で本番を迎えること、これは通常楽器を持ち歩くことがないピアノ弾きにとって宿命としか言いようがありません。どんな楽器であろうが、ピアニストたるものそれなりの演奏をしなければならないのは言うまでもないこととされていますし、「楽器が良くないから上手く弾けなかった」などとは口が裂けても言えないわけですが…。

そうは言うものの、普段と異なる楽器を触るということは結構大きな問題でして、実は、「楽器のせいにしてはいけない!」とかいった根性論だけで済ませる話ではない、と個人的に感じています。楽器が違う以上、普段と同じ弾き方をしているようでは、お粗末そのもの … と口で言うのは簡単ですが、付け焼刃で対応できるような簡単な話ではないな、と思います。私自身、対応に失敗することもしばしば。先日もちょっと痛い目にあいました。つくづく自分の未熟さが嫌になりますね~。

で、いろいろ考えてみますと…。

一つは、普段から触っている楽器の大きさと、本番の楽器の大きさの差異の問題。これ、無頓着に対応すると、結構大失敗しますね。私も何度となく失敗しています。

大きな楽器に慣れた人が小さな楽器で本番を迎えたときに、低音部の響きが痩せて貧弱になってしまったりすることがあります。特に、弱音の和音の場合、この問題が露呈してしまうことがありますね。和音の音量や音色のバランスは、声部によって全て異なりますが、弱音の和音の場合、バス音は安定した豊かな響きがほしいものの、減衰の速い高音部の響きを埋もれさせるわけにはいきませんから、微妙なタッチで対応する必要があるわけです。で、いつものタッチで弾くと「あれ~低音が鳴らないよ~」ということになったりしてしまいます。ちなみに、私の場合、スタジオが211センチ、自宅が182センチのグランドピアノですが、170センチぐらいの楽器を触ったときに思いっきり失敗したことがあります。

逆に、普段小さな楽器で練習している人が、大きな楽器で演奏するときに、低音部を必要以上に鳴らしてしまい、減衰の速い高音部の響きが完全につぶれてしまう、などという現象も結構よくありますね。

また、アップライトピアノや電子ピアノで練習されている方が、演奏会等でグランドピアノを弾くことになった場合も、音量や音色のバランスが普段とは大きく変わってしまうことに注意が必要ですね。特に、電子ピアノには「音量つまみ」がついていますが、アコースティックな楽器では最強音から最弱音まで全て身体で表現しなければなりませんから、「普段と同じように本番弾ければそれでいい」という話では全くありません。本番における平常心と、本番における弾き方とを同視できないことに注意すべきでしょうね。

いずれにしても、普段から大きさの違う楽器に慣れ、楽器の大きさに合わせてタッチや音量バランスを変える練習を入念に行う必要がありますね。

あと、無視できないと感じるのがアクションの差異。私の場合、レンナーのアクションに慣れているせいか、レンナー以外のアクション(ヤマハやカワイ等)だと、相当タッチが違うと感じてしまいます。口で説明するのは難しいですが、触感がかなり違うのです。実際には、メーカーによって設計思想が全く違いますから、音色等もメーカーによってそれぞれではあるのですが、ベーゼンドルファーやファツィオリ等を弾くと、どこかレンナーならではの共通点のようなものを感じることがありますね。

それから、影響が大きいのが整調と整音の状況。「調律直後です」というピアノであっても、整調と整音の実施状況は、現場によってまさに千差万別。「あれ~打弦距離が~」とか「弦の当たりの角度が~」とか「ダンパーの止音が~」とか「ハンマーの硬さが~」とか。挙げればキリがないほどです。特に、湿度や気温の変化が激しい日本では、整調と整音がどのようになされているか、ということが弾き心地を決めるとても大きな要素になってくると思います。正直なところ、常々、メーカーがどうのこうのという話以上にシビアな話だと感じています。

調律師の立ち会いがあれば、そのあたりは妥協なくリクエストできるのでしょうが、技術者がいない場合は、やはり奏法で対応するしかないですね。出来ることと言えば、リハーサル時によく確認することでしょうか。もっとも、本番前暗譜の不安もあったりするときに、そこまで気がまわらなかったりすることもありますね。

それでなくても通常と精神状態の違う本番において、普段と違う楽器で普段と違う弾き方をする、これって、結構大変なことですよね。結局のところ、いろいろな楽器を触り、場数を踏む、これしか有効な対策はないような気がします。