スタジオの開設からそろそろ一年を迎えます。昨年の今頃は、ホームページの開設・記事作成やスタジオの防音工事、備品類の調達に追われていましたが、今年は少し落ち着いて音楽に向き合うことができそうです。
この一年、本当に多くの出会いに恵まれました。そして、皆さまから多大なるご支援を賜りました。心から感謝の意を表します。本当にありがとうございます。至らぬことも多いとは思いますが、これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
さて、スタジオの運営は、現在でもずっと手探り状態が続いているのですが、当初から自分の中で決めていたのは、「自らも音楽を学び(未熟とはいえ)演奏する者」としての視点から、「私自身もこういうものがあったらいいなと思える何か」を提供することでした。長時間練習しても客席に座っても疲れにくい音空間、遠くの音を聴く訓練ができる環境、奏者のスキル開発に役立つ体験、ピアノ弾きが満足できる楽器の維持 ― そういうことができないかな、とずっと考えておりました。
こういう自分の理想を形にしていくプロセスは、いろいろ難しいことや煩雑なこともあったりしますが、好きなことをやっているので、あまり疲れを感じないものです。先日、ある方にもお話したのですが、多分、私自身「ピアノという楽器を手間暇かけて手入れすることが大好き」なのだろうと思います。毎日湿度や温度を確認し、実際に楽器を触ってみて状態を手動で管理するあたりは、効率化が進む IoT 全盛時代にあって、随分と時代錯誤的なやり方かもしれませんが、そういうことが好きで好きでたまらないので全く苦になりません。楽器は生きていますから、愛情をもって接すれば愛情をもって応えてくれる…不思議ですね。そうそう、楽器は、道具のようでありながら実は本当に「いきもの」でして、機嫌もいろいろ変わりますし、何より奏者のことを本当によく覚えているものなのです。よく、引退した盲導犬がパピーウォーカーのことを覚えているという話を見聞きしますが、楽器にも同じようなところがあります。先般そういう現場に遭遇して、非常に感動しました。
もちろん、欲を言えばキリがありません。もっと広かったら、楽器も複数台あったら…と思うことはよくあります。それはそれで、今後も夢として追いかけていくとして(←それだけの資金が手に入るのか…???…)、まずは今の条件で出来ることを突き詰めていこうかな、と考えているところです。ですから、こちらのスタジオは、あくまでも音楽家の「仕上げていくプロセスの場」でありたいと思っております。いわば「修行道場」のようなものでしょうか。晴れの場としての「ホール」や「お茶会会場」とは少し違う用途かもしれませんね。あくまでも、こちらのスタジオはスキル開発のための場所でありたいのです。
そんな中で、これも瞬間の思いつきで始めたことですが、定期的に開催することにしたのが「練習会」です。決して広くないという会場の条件を逆に最大限利用すること、即ち、奏者と客席の距離が近い「緊張感」漂う条件下でパフォーマンスを追求することが、開催の眼目の一つです。先日ある方から、「これこそシューベルティアーデの世界だね」という嬉しいお言葉をいただいたのですが、まさに「緊張感」と「親密さ・心地よさ」を兼ね備えたイベントでありたいと常々思っております。また、こちらの「練習会」、ご参加いただいた方はご存知かと思いますが、通常参加者の皆さまには原則2回弾いていただくことにしております。これの意図するところは、スキル開発における「迅速なフィードバック」効果と「修正回路の構築」効果です。1回目のトライアルで「出来たこと・出来なかったこと」を受けて、2回目のトライアルで新たに対応してみる、そんな場をご提供できないかな、と思ったりしております。
ありがたいことに、こちらの練習会に繰り返し通ってきてくださる方もいらっしゃって、私も大変励みになります。先日、とあるリサイタルに参りましたが、練習会でずっと繰り返し弾かれていた曲の本番の「晴れ姿」を拝見して、目頭があつくなりました。準備のプロセスのほんの一部に関わっただけではありますが、私も他人事にはとても思えなくて、演奏中ずっとドキドキが続きました。難所が沢山ある曲で、聴いている私の方が何度も息が止まりそうになりました。嬉しかったのは、その方の本番の演奏が最も輝いていたこと、そして確実に音楽が息づいていて、それを聴衆とともに分かち合えている現場に同席できたことでした。
まだまだ、手探りで至らぬところだらけのスタジオ運営ではありますが、やってみたからこそわかる幸せというものもあるな、と実感する今日この頃です。